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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

第十一話 ただ酒、ただ飯、お土産は仕事

第十一話 ただ酒、ただ飯、お土産は仕事




ただ酒とただメシ

「おばあさん。あそこへ座っていて下さいよ。私が持っていってあげますよ」

三浦雄一郎さんが主宰する三浦ドルフィンのパーティ会場です。

立食パーティの席で、似つかわしくないお婆さんがおろおろしていました。

盛り上げられた料理が上手く取れないようです。

ポロポロこぼしています。


私はガツガツ食べて、グイグイ飲んでいました。

ほかにやることもなかったのです。

知った人は一人しかいません。


冒険家で尾崎啓一という人がいます。

偶然知合いました。

「ただ酒とただメシが食えるから一緒に行かない?」

と、フラリと私の事務所に現れて引っ張り出されました。

三浦雄一郎さんも来ると言うし、どのような人か見たいと思って付いていきました。


会場に入ると尾崎さんは自分の知り合いを見つけて行ってしまいました。

私は、やることもなく、会場の後ろのほうの隅でパクついていました。



今度はお爺さんが現れた

お婆さん、だいぶもうろくしているようで、話が噛み合いません。

でも私から離れません。

一生懸命何か話しています。

少ししかない椅子を二つ確保してお相手をしていました。


「済みません。見つからなくて探していたんです」

今度はお爺さんの登場です。

この人はしっかりしているみたいです。

「完全にボケているので、フラフラ行ってしまうのです」

「ご迷惑をお掛けしました」

「ダメだよ。あっちに居ないと」


「あっちへ行こう」

とお爺さんが声を掛けてもお婆さんテコでも動きません。

「ここでいいんじゃないですか」

もう一つ椅子を探してきました。


このお爺さんいい年なのに、まだスキーをやっているみたいです。

来月スキー場がオープンすると楽しそうに話しかけてきました。

「テイネはいいですよ」

「あれ、行かれたことはないんですか」



何、このお婆さん雄一郎さんのお母さん

「それではここで、我が三浦ドルフィンの会長からご挨拶を頂きます」

司会者の声が一段と大きくなりました。

「ご迷惑ついでに、婆さんをもう少し預かって頂けますか?」

お爺さん、トコトコと行ってしまいました。

そのまま一段高い壇上へ。


何、あのお爺さんが三浦敬三さん。

そうするとこのお婆さんは……。

「ねえ、お婆ちゃん。お婆ちゃんは雄一郎さんのお母さん?」

お婆さん、何にも答えずにお鮨をパクついています。


大きな拍手で三浦敬三さんの挨拶も終わりました。

「助かりました。だめなんですよ、こいつ。あなたが気に入ったみたいで」

その後また、敬三さんとの会話が続きました。

「ところであなたは、どういう人ですか? お会いしたことないですよね」

「はい、ただ酒を飲みに来ました。こういう者です」



私の本を作ってもらえませんか?

「そうですか。出版をされているんですよね」

「私ね。撮りだめた写真がいっぱいあるんです」

「写真集を作ってもらえませんかね?」

今度は前に書いた奈良原一高さんのときのようなヘマはしません。

「まず見せて頂けますか?」


そのような会話をしているときに三浦雄一郎さんが近寄ってきました。

「この方に、お世話になっているんだよ。ボクも母さんも」

「そうですか。有難うございます。どうぞゆっくりしていって下さい」

「一度ぜひ、ドルフィンの事務所にも遊びに来て下さい」


帰りに尾崎さんに話したら、ビックリ仰天です。

「敬三先生の写真集なら、ドルフィンでも買い上げるよ」

「○○さんって不思議な人だね。必ず手ぶらでは帰らないんだから」



敬三先生が現れた

約束の日に三浦敬三さんが私の事務所へ見えられました。

タバコを買いに出たらバッタリです。

「どうぞどうぞ、こちらです」

エレベーターのボタンを押しました。

「いや、社長さんはどうぞエレベーターで」


敬三先生はとことこ階段を上がっていきます。

しょうがない、私も階段です。

3階に事務所はありました。

打ち合わせが終わると、敬三先生これから御茶ノ水へ行くとのことです。

「ちょうど私も御茶ノ水へ行きますよ」と一緒に出かけました。


「こっちです」

敬三先生、違う方向に歩き出しました。

「駅はこっちですよ」

「いえ、お茶の水はこっちです」

私の事務所は飯田橋です。

敬三先生、2駅歩くつもりです。


まあいいかと歩き始めたのが運のつきでした。

早いんです、歩くのが。

そのときすでに80歳くらいです。

当時、私は40歳くらいです。

その私が駆け足です。

11月なのに、著名なビンディング会社に着いたときには汗ばんでいました。



第十二話 閃いた


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